第56話:ものの立場で考える

「相手の立場になって考えなさい」

 

子どもの頃、親や先生から言われませんでしたか?

 

工場の材料や部品、仕掛品、製品に、もし人間と同じように心があったら

何を考えているでしょう?

 

今日はちょっと、材料の立場になって考えてみましょう

 

 

鉄板の太郎(ここでは便宜上擬人化しています)は、

同じ鉄板仲間9枚と一緒にこの工場にやってきました。

 

「僕らはいったいどんなものになるんだろうね」

 

太郎は仲間の鉄板と自分たちの将来を語りあっていましたが、

いつまで経っても出番がありません。

 

そうこうしているうちに、同じ鉄板仲間が新たにやってきて、

太郎たちの束の上に置かれました。

 

「こんな置き方されたら、俺たちの出番は後回しになってしまうじゃないか!」

 

と怒り心頭ですが、どうしようもありません。

 

結局、出番がやってきたのは3ヶ月後。

そのとき、10枚のうち2枚は錆びて使い物にならず捨てられてしまいました。

 

ようやく太郎は、他の仲間と一緒に切断されたのですが、

切断されると一部の仲間は次の曲げの工程に行きましたが、

太郎は工場の奥の置き場に運ばれました。

 

「あれ、なんでこんな遠くて寂しいところに連れて来られるんだよ・・・・」

 

太郎はまた、そこで他の仲間と一緒に1ヶ月放置されてしまいました。

 

こんな調子で、曲げ、溶接、塗装と徐々に作業はされるのですが、

作業が一つ終わるごとに工場のあちこちに連れて行かれて、

その都度次の仕事まで待たされる始末です。

 

工場のあちらこちらに運ばれたり、他の仲間と一緒に積上げられているなかで、

工場の作業者が落としたり傷つけたりしてしまい、

10枚いた太郎の仲間の半分は使い物にならなくなり、捨てられてしまいました。

 

太郎は幸いにも凹むことも傷つくこともなく、

工場の最終工程、組立工程にやってきました。

 

最初に切断されてから、もう既に半年が経っていました。

 

「なんで、切断、曲げ、溶接、塗装、組立と、次々に仕事をしてくれないんだろう。

実際仕事をしてくれる時間なんてほんのわずか、ほとんど待ってばかり。

でもようやく僕らも完成品になるんだ、うれしいな!」

 

太郎は、計測器の外箱として完成品の一員になることが分かり、

いろいろな工場でいろいろな計測の仕事を担うことに誇りと期待を感じていました。

 

ところが、計測器が完成されると、お客さんのところに配送されるわけではなく、

製品倉庫に送られてしましました。

 

「えっ、すぐに活躍できないの?でも、きっと数日後には僕らも出荷され活躍できるんだ」

 

しかし、太郎が外箱として組み込まれた計測器がお客さんのところに行くことはありませんでした。

 

5年後、最新の計測器が発売になったとき

ホコリを被った段ボールに入っている太郎の計測器は、廃棄処分になってしまいました。

 

「いったい、僕らはなんだったんだろう・・・・」

 

うちの工場はこんな扱いはしていない、

と胸を張って答える工場はたぶんないでしょう。

 

購入した部品のいくらかは陽の目も見ることもなく立ち去っていきます。

 

ものにも心があれば、みんなの役に立ちたいと思っているハズ。

 

できるだけ彼らの想いを叶えてあげなければなりません。