第50話:在庫量の理想はゼロか?
トヨタ生産方式を学んできたというと
「トヨタ生産方式は在庫がゼロを目指しているのでしょ。買う側はいいけど、部品を売る側は常に在庫持っていなければならない。自分勝手なしくみですね」
と聞かれることがあります。
トヨタ生産方式は、在庫を持つムダを説いていて、必要以上の在庫を持つことは否定しています。
しかし、在庫はゼロが理想だという話は聞いたことがありません。
また、われわれの身近な家庭で考えてみれば、在庫はゼロが理想でないことがよくわかります。
毎日の食事の食材は冷蔵庫に保管しています。食材は家庭の在庫です。
そんな在庫ですが、野菜をついつい買い過ぎて古くなって捨ててしまう。
何種類もある調味料のほとんどが賞味期限切れで、結局使わずに廃棄してしまう。
そんな食材のムダを見かねたお父さんが、お母さんに
「わが家は食材の在庫ゼロを目指す。冷蔵庫も撤去だ」
といったらどうなるでしょう。
もし冷蔵庫がなく買い置きの食材がなければ、毎晩の夕食はお父さんが帰ってから、なにが食べたいか聞いて、その都度スーパーマーケットに買い物に行くところから始めなければなりません。
お父さんも空腹に耐えられないでしょうし、お母さんも毎晩急いで買い物に行かなければならなくたいへんです。
工場も在庫を持たなければ、お客さんの注文を受けてから材料や部品を手配すると日数が掛かります。
注文を受けた製品が、そのお客さん固有の仕様であり注文を受けてからでないと材料や部品が決まらないものであれば、お客さんもある程度日数を待ってくれます。
ところが、他のメーカーでも販売しているような一般的な製品になれば、お客さんは少しでも早く納めて欲しいと考えます。
いまから材料や部品を手配するので1ヶ月まって欲しいなんて回答していたら、注文を失ってしまいます。
では、在庫はどれだけ持てばいいか?
在庫はゼロにする必要はないですが、できるだけ少なくすることです。
どうしたら少なくできるか。
まずは、自社工場内の実力によります。お客さんからある製品の注文を受けて1個ずつ直ぐに作ることができれば、在庫は1個ですみます。
小ロット、一個流し生産にして、短いリードタイムでできるようにすることです。
次は、仕入先との関係です。
自社の材料や部品の在庫が無くなったら、注文をしてからどれだけの日数で納めてくれるかです。
そのときは仕入先の実力もありますが、自社の注文の仕方も影響します。急に大量の注文をしたら仕入先も対応できません。
スーパーマーケットも昨夜の情報番組で健康に納豆がいいと放送されれば、店頭から一気に納豆の在庫がなくなってしまい、毎日定期的に買っているお客さんが大迷惑です。
毎日必要なだけコンスタントに買うことです。
自社内のものづくりの実力アップ、仕入先との連携強化を図ることで、在庫をできるだけ少なくすることです。